ショートストーリー~「初節句」~

目に入れても痛くないほど…
という例えのように
孫はかわいいものだ。

特に、会う人会う人が
「あらぁ、じいちゃんに似てるわねぇ。」

と言っているのを聞くと
なぜだか嬉しくなってしまう。

初節句は数か月後。

こちらも“じぃじ”になったばかりなので、
何をどうして良いのか
まだ良く分かっていない。

家内が友達から色々聞いていた。
男の子の場合は、鎧兜、鯉のぼり、
陣羽織、ちまき、お赤飯などが
一般的のようだ。

空を泳ぐ大きな鯉のぼりが良いかなぁ
男らしく育つように鎧兜も良いなぁ

などと家内に話してみると、
「あの子達は狭いマンションに住んでいるのよ。」
と、一言で両方とも却下された。

結局、子供達や先方のご両親とも相談となり
いくばくかのお祝いを包むことになった。

初の節句
その日は雲ひとつない青空で
鯉の泳ぐ姿が見えるようだった。

孫を囲んでお祝いごとを執り行い、
狭いマンションに大勢が集まったので
早々に引き上げることにした。

母親に抱かれた孫も玄関まで見送ってくれた。
“じぃじ”として、
成長を願う何かを直接その小さな手に渡したかった。

それくらいの大きさなら、マンションでも大丈夫だ。
胸ポケットから1本の筆を取り出した。

いずれ自分の名前を書くことがあるだろう
そして、大きな夢を描いて欲しい

その思いを
小さな手で
力いっぱい握りしめてくれた。

(おしまい)

※ストーリーはフィクションです。

by Dee

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