ショートストーリー~「幻日」~

めまいがしそうなほど暑い。

しかしまだ訪問しなければ
ならないところが数件ある。

よりによってこんな日に
外回りとは…

クーラーが効いている事務所で
内勤している同僚を
うらめしくさえ思えた。

「こんにちはー」
次の訪問先に行くと
「暑い中大変ですねぇ」
ねぎらいの言葉と
冷たい麦茶を頂いた。

これは内勤では味わえない
嬉しい出来事で
どちらかと言うとやっぱり
外回りが好きなのだ。

その次のところでは
「こんにちはー」
「子供が寝付いたばかりなの!
静かにして!」
小声でお叱りを受けた。

訪問先によって、
声のボリュームは
変えているつもりだったが、
タイミングも大事だなぁ…。

事務所に戻り日報を入力していた。

あれ?
最後に訪問した一人暮らしの
おじいさん。

耳が遠いので大きな声で
「こんにちはー」と呼んだ。

相変わらずお元気そうだったが、
データでは施設に入ったことに
なっている。

(おしまい)

ACM-P

※物語はフィクションです。

by Dee

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