ショートストーリー~「腕時計」~

11歳の誕生日、
親からのプレゼントは腕時計だった。

初めて自分の腕時計を手にした僕は、
少し大人になったような気がした。

黒い革のバンドに丸い緑色の文字盤。

それこそ、時が経つのも忘れるほど眺めていた。

普段、学校へは外して行くが
休みの日に出掛ける時は必ずつけていた。

友達に“おっ!”という顔をされると、
ちょっと照れくさくはあったが
“いいだろう”という思いもあった。

ある日曜日
友達に誘われ遊びに行こうとした時
腕時計が止まっていた。

“あれ!?”

振ってみた。
動かない。

どうして良いかわからず、
もう一度振ってみた。

動かない。

“どうしよう…”

内心かなり慌てていた。
しかしどうすることもできず、勉強机に置き
外で待っている友達の元に駆け付けた。

家に帰り、真っ先に腕時計を見た。
動いている。

“あれ!?”

耳を近づけるとカチカチ聞こえる。
直っているのは嬉しいことだが、
なぜか素直に喜べない。

その時、奥の部屋から親の声が聞こえた。

「ぜんまい巻いておいたから。」

そうか、そういうことだったのか…。

時計は動いているのに、

また子供に戻った気がした。

(おしまい)

ACM-P

※物語はフィクションです。

by Dee

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