地域のなかで【16】
「施設へ入れられてしもうたそうな。」
「家族がいるのに。」
介護保険制度がスタートした頃、介護保険サービスを使うことに対して否定的な目をする方が私が働いてきた地域には多かった。
福祉用具貸与事業所で働いていた時には、
「車イスやベッドが近所に見えないように運んでください。」
訪問介護や通所介護では、
「名前(事業所名)が車に書かれていないところにしてください。」
と言われることもあった。
周囲から、
介護保険サービスを使う=親不孝者orひどい嫁(婿)
という目で見られることが怖い。というのが理由であった。
施設へ入所されるために、事前アセスメントに訪問しようものなら、
「かわいそうに。」や「家にいるのなら、面倒をみれば良いのに。」
そのようなことをヒソヒソと話す場面も多くみた。
介護保険制度がスタートして15年になろうとしている今、国では新たな方向性が示されてきた。
介護離職を防ぐため、特別養護老人ホームなどの宿泊設備を備えた介護サービスやサービス付き高齢者向け住宅を50万床増設する方針であることが報道された。
介護保険サービスとしては、2020年代はじめまでに対象サービス(施設・在宅)を40万人分整備する方向性だ。
利用者40万人として、人員配置…特養3:1で考えると、14万人近い介護職員が必要となる。
ここでいう介護離職は、家族の介護を抱えている労働者が離職することを指している。仕事と介護の両立という厳しい環境に苦しみ、仕事を辞めざるを得ない状況があるからだ。
…なかには、介護職の離職率が高いことから、そのことを指していると勘違いをしている方もいるようだ。
今回のこの方針のなかで、介護人材確保についても示されているわけであるが、
処遇改善について、賃金という文字は見当たらない気がする。(介護ロボット普及や研修制度の充実、育児支援などは見つけた。)
介護離職の原因については、
1位 仕事と「手助・介護」の両立が難しい職場だったため
2位 自分の心身の健康状態が悪化したため
であり、複数回答であるにもかかわらず、「施設へ入所できなかった」「在宅サービスが使えなかった」という回答よりも多い結果だ。
地域差はあるのだろうが、介護保険制度への理解、介護というものへの理解を地域で深めていくほうが重要ではなかろうか…
介護休業を取得しなかった理由の1位が「制度を知らなかった。」というのも課題でしょう。
実際に、地域への理解を深め、包括ケアシステムのイメージを完成させつつあった地域などは、この度の方針をどのように感じているのだろうか。
「へ?施設増えちゃうの?小規模多機能を増やすの?サ高住できるの?」
ってな状態にあるのではなかろうか。
幸いなのか不幸なのか、未だ地域包括ケアシステムの「ち」の字すら見えてこない我が地域の行政は何を感じたのだろう。
事業所の車に乗り込むその姿に、
「最近は元気そうだね。週に何回行くの?」
「寂しくなるけど、面会に行くからね、たまには帰っておいで。」
2020年代はじめに、そう言葉をかけれる地域はどれだけあるのだろうか。
広報部@若頭