桃の節句の日に
いちご大福を買いに行った。
実家の母に送るため。
青空の下、車を走らせていると緊張感のある日々を忘れてしまいそう。
いちごは薄い餅に包まれて見えないが、うっすらと確かな存在感がある。
私が一年で一番、この可愛らしい果物を食べたくなる日は雛祭りかもしれない。
あかりをつけましょ ぼんぼりに
事業所に通ってこられる利用者さん達が、ふと口ずさむ歌。
女性の方々が、それぞれお雛様の思い出話を語ってくださる。
ぽつりぽつりと。
じっと耳を傾ける。ポカポカと温かな記憶もあれば、思い出はないと言われる方も。
何か季節行事があるたびに、それをきっかけとして私の中でいくつもの物語が、更新される。
いちご、お雛様、クロッカス、梅、、、春を告げるものが街にあふれてきた。
日はどんどん長くなっている。
「いちご大福美味しかったよ。ちょうど管理栄養士さんが家に来る日でね、栄養士さんにもあげたよ。」
母から電話がかかってきた。
食べることが苦痛でしかなかった、数年前に胃を摘出した母の口から今は「美味しい」という言葉が聞ける。
また来年も、いちご大福を届けられればいいな。
利用者さん達とお雛様を楽しみたいな。
時間は緩やかに流れ、全てを運んでいく。
(投稿者@PAO)