ショートストーリー~「帰国」~

3年前、技能実習生として日本に来た。

気候に慣れず、食べ物にも慣れず、
言葉も分からない私は毎日泣きそうだった。

そんな私を支えてくれたのは会社の人や
一緒に来た同僚だった。

お祭りや海に連れて行ってくれ、
おいしい料理を作ってくれた。

少しずつ慣れてくると、今度は日本での
生活が楽しくなってきた。

自然や環境、動物を大事にする文化は
学ぶことが多い。
一番驚いたのは落ちているゴミが少ないことだ。

そして、あっという間に3年が経った。

今年は実習を修了し、母国に帰るはずだった。

世界的な感染症がなければ…。

母とは週に1回連絡をとっているが、
父の体調はあまり良くないようで、
一日でも早く家に帰りたいのが本音だ。

しかし二国間の定期便は飛んでおらず、
母国政府の救援便も帰国困難者の割りに数が少なく、
不定期なチャーター便は値段が高い。

それでも、私の気持ちを汲んでくれた会社の人は
なるべく早く帰れるようにすると言ってくれた。

あとはただ、待つしかない。

それから数日後、チャーター便が飛ぶと連絡が入った。

こんなに早く帰れると思っていなかった私は
喜び勇んだが、次の瞬間帰国費用が心配になった。

飛行機代は会社が負担してくれるが、
母国に着いてからの隔離費用は自己負担だ。
しかも、1か月分の給料に相当する金額…。

父の病気の治療のために仕送りを続けていたので、
あまり手持ち金がなかった。

そのことを会社の人に話すと「心配ないよ」と
笑顔で言ってくれた。

思わず、涙が流れた。

いよいよ帰国当日。

3年間、苦楽を共にした同僚は、一足先に帰る私を
抱きしめて見送ってくれた。

社長や専務をはじめ、会社の人もたくさん
空港に来てくれた。

最後の挨拶を済ませ、搭乗ロビーに行くと
検疫官の指示で防護服を着せられた。

青いビニールに身を包んだ私は、一歩一歩
機内へと足を進めた。

(おしまい)

※ストーリーはフィクションです。

by Dee

Follow me!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

次の記事

さなぶり