天狗山の頂上で愛を叫ぶ
「天狗山の頂上で愛を叫ぶ」
朝、目が覚め、全く別の何かが始まった気がした。いつものことだ。
カーテンを開けていつも見える景色。
窓の左にはロープウエイがのどかに上がり下がる天狗山。
家を出で車窓の右を横目に会社へと向かう。
この山は小樽市のシンボルの一つで、北海道三大夜景を見下ろす展望台とスキー場のリゾートとして親しまれている。
名称の由来は、当時天狗が住んでいたと思われてたと言う説や、山の形が天狗ににていたと諸説あるようだが、天狗は小樽市民には身近な言葉だ。
天狗館は大小様々な天狗のお面や全身像が飾られており未だにちょっとしたトラウマだ。
頂上まで532m。小学生が授業の登山で登れる高さだ。これは東京スカイツリーより100mほど低いくらいらしい。
やっと少しずつ暖かくなる時期。小樽はどこよりも早く咲く小樽警察署の桜が開花の目印だ。
天狗山山頂に咲くその1本桜が、反対に小樽で一番最後に開花する桜である。
明治時代に植えられたという樹齢百年を超えた木は「天狗桜」と呼ばれ親しまれている。
会社に到着し、いつもより忙しく時間が過ぎる。
昨日から始まっている2週間以上に渡るお花見ツアーは皆の楽しみにしている年間行事の一つだ。
前の月から遅くまで残って皆で計画してきた。
初日は蕾だった。かろうじて咲いていた小樽警察署の桜に皆で声を上げた。
最終日、市内の散った桜に少しさみしそうにも楽しまれていた。
最後の日だけ桜を求めて道順を変える。
駐車場から普段歩けるより少し距離がある。
助け合って進む。
山頂の天狗桜は満開を迎えていた。
――――― 歓声。
天狗桜は開花するとハート型の形になるのだ。
仕事で訪れたはずのこの日、
初めて心の底から桜が綺麗だと思った。
朝、目が覚め、全く別の何かが始まる。
(和楽)
※この物語はフィクションです。