Aさんは、ケアマネジャー水嶋(仮名)が担当した最初の女性だった。
出会ってから7年。その間、自分は対人援助職としてたくさんのケースと向き合ってきた。一人では解決できず壁にぶつかってなかなか前に進めないときは、事例検討会等で同じケアマネジャーや多職種の意見を聴いた。
Aさんに関しては、特に大変困っているという状況ではなかった。一見、このまま今の調子でサービス利用を続けてもらえば何も問題はないように思えた。
そんなある日、SAPACの事例提供者を引き受けることになった。
Sharing assessment process by arrow chart
アローチャートを使った事例検討会である。水嶋の脳裏にAさんの顔が浮かんだ。ケアマネジャーになりたての頃からずっと横を歩き、見守ってきた人。彼女のことはよく知っている。
だが。なぜだか、どうしてもしっくりときていないと感じる部分があった。分析が必要だった。
「SAPACでAさんの心のうちを知りたい。理解をもっと深めたい。」そう思った。

ファシリテーターは、同じ地域で活動しているケアマネ仲間が立ってくれた。3枚並んだホワイトボードの左側にAさんの基本情報が書かれていく。右側のボードにはAさんのこれまでの生活歴が年表で表される。
実は水嶋は、高学歴でプライドが高いAさんにふりまわされているようなしんどさを抱えていた。水嶋が「こうしたらいいのに。」と思うサービスもうまく入っていかない。
参加者からの質問に答えながらも、Aさんへのなぜ?という疑問が小さくモヤモヤしたままだった。
ファシリテーターが真ん中のボードにアローチャートを描く。吉島先生が「Aさんにとっての○○って何?」と投げかける。基本情報が描かれたボードの裏側を使って、主観的な情報の整理が始まる。Aさんにとっての○○、Aさんにとっての○○。真ん中に線が引かれ、両側にそれぞれを意味する言葉が並べられていく。それにより、Aさんにとってのアイデンティティーの危機が浮かび上がってきた。Aさんの苦しみ。苦しさゆえに、好きなものに逃げ込んでいた。その逃げ場に理解のある支援者になること。そこが、今回のSAPACに立ち会った参加者の心にジワリと染み渡った落としどころである。

水嶋は思い出した。最初に出会った頃、自分が卒業した大学の学部を口にした時のAさんの表情を。Aさんが好きなものと自分が学んでいたものには共通点があった。
きっとこの人となら話ができる。
私が好きな世界をわかってもらえる。
私のことも理解してもらえる。
そう思ってくれたのかもしれない。
今までモヤモヤとしていたことが、線で結ばれていく。

「元気なうちに墓参りに行きたいと思って。やり残すことがないように。」と、水嶋がAさんから明るい声で報告を受けたのはSAPACから数日後のことである。今、水嶋は実感している。Aさんにとっての大事なものがわかったことで、支援していく中でこれほど気持ちが楽になるものなのだと。

(投稿者@PAO)