芍薬

高齢の両親にもう耕作は無理、兄妹で話し合い田畑の管理を他者に依頼することになった。両親とも「そうして欲しい」と言い、それが決まった時には「ほっとした」と胸を撫で下ろしていた。

父が“植えっ放しのらっきょうとニンニクが気になる”と言い出した。「最後にらっきょうを掘って漬けようや」と言うことになり、父とらっきょうを掘り起こし、母とらっきょうを漬け込んだ。

今度は母が“畑に連れて行って欲しい”と言い出す。「危ないから見るだけよ」と約束し畑に連れて行く。骨折してから3ヶ月ぶり・・・母は感慨深げに畑を見下ろしていた。

下の畑から『おばさん来ちょるんかね』とご主人から声を掛けられた。畑を見たいと言うから連れて来たと伝えると『ほんなら顔を見に行こう』嬉しそうに母に向かって走り寄るご主人、ひとしきり話をされその場を後にされた。

暫くすると、今度はその奥さんが『おばさん、来ちょっての?!』と現れ足早に母の元に走り寄る。嬉々として母の手を握り『おばちゃん、逢いたかったんよ』と涙々・・・後は言葉にならず二人は肩を抱き合いしばし号泣する。それを見る私たち娘ももらい泣き、静かに時間は流れていった。

『ちょっと待っちょって』とその場を後にし、再度母の元に走り寄られたその手には彼女が丹精された芍薬の花束が抱えられていた。『この花をどうしてもおばちゃんに渡したかったの』いつまでも握り合うその手には、綺麗と称えられるその花が一層輝きを増していた。

その花は今、誇らしげに客間に飾ってある。

@くんちゃん

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