路地裏
路地裏にある小さな居酒屋を前に、
彼は、一瞬立ち止まり、深く息を吸って、そしてふっと姿を消した。
何十年も通い慣れた店の引き戸は、麻痺が残っている手でも簡単に開けること
ができた。
脳梗塞の後遺症があるから、バスに乗れない、電車に乗れない、お金の支払いができないなんて、
誰が決めることができるだろう。
専門職の意見はどれも否定的だったが、
「やってみなければわからない。」と彼は思い続けていた。
そして、実現した。
店内は何も変わらなかったけれど、彼が二年間、入院やリハビリをしていた分、
なじみの友人たちはそれぞれ年を重ねていた。
歩いて来れなくなった分、タクシーを使う友人もいた。
シャッター街にある居酒屋で周囲の静けさをよそに彼は久しぶりに笑った。
(投稿者@marua)
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