ショートストーリー~「退院」~
退院の日、看護師さんたちに花束を渡される。
そんな光景をテレビで観たことがあるが、
現実は「お大事に~」の一言であった。
まぁ、「また来てねぇ」より良いのではあるが…。
まさか自分が入院するとは思ってもいなかった。
頭は弱いが体は強い、が取り柄だった。
しかし幸いにも大事には至らず、
今日こうやって退院を迎えることができた。
先生や病院のスタッフには感謝である。
色々と不自由ではあったがそれは仕方がない。
ひとり気になる女の子がいる。
別の病棟に入院しているのだが、
本を置いている談話室でいつも会う。
名前は知らないが、よく顔を合わせるので
自然と会釈をするようになった。
“あの子はまだ退院できないんだろうか…”
そんなことを考えながらエレベーターに向かい、
談話室の横を通る時、女の子の姿が目に入った。
病衣でもなくカバンを持っている僕は
もう同じ入院患者ではなく、
何か気まずい思いがした。
会釈をする前に、彼女は手に持っているものを上にあげ、
僕のほうに差し出した。
「退院おめでとう」
「あ…ありがとう」
「これあげる」そう言って包みを僕に手渡した。
「え、いいの?」
「うん、じゃあね」とその場を去ってしまった。
数週間ぶりに帰った我が家はやはり落ち着く。
ほっとしながら着替えや洗面用具を片付け、
最後に包みをそっと開けてみた。
“お絵描き帳…”
表紙をめくると
丁寧に丁寧に
色を重ねた花束が
描かれていた。
(おしまい)
※ストーリーはフィクションです。
by Dee