女性にしては珍しいかも知れないが、母は買い物が嫌いである。
必要以上に行きたがらず、行ってもすぐに帰ってくる。

子供の頃はお店にある色々なものに興味を持ち、
「これは何?」「あれは何て言うの?」など
いちいち聞くのだが、その時母はすでに遠くに行っていた。

高校生になって訊ねたことがある。
「母さんは買い物が嫌いなの?」
すると「別にそんなことはないよ」と言いながらも
顔を横に向けるのであった。

私は高校を卒業してすぐに働き、
初めてもらったお給料で母にプレゼントを買った。
今まで育ててもらった感謝の気持ちを込め
安物だけど母が好きな色の洋服を選んだ。

それを手にした母は涙を浮かべ
言葉を詰まらせながらこう言った。

「ありがとう…今まで苦労かけたね。
実は母さんのお父さん、つまりあなたのおじいさんが、
友達の保証人になっちゃってね。
…もう…思い出したくないくらい…つらいことがあったの。

そんな思いをあなたにだけはさせたくなくて、
お金で苦労するようなことがないようにと…

でも、同じだったみたいね。結局は…」

私は何も言えなかった。

「あなたはもう社会人なんだから、これからは自分の道を自分で歩いて行きなさいね。」と言いながら一冊の通帳と印鑑を渡された。
「これは、あなたが産まれてからこの日のために少しづつ貯めておいたの。あなたのものよ。」

手に持ったが中を見ることができなかった。
目を開けると涙が落ちそうだった。

「就職おめでとう。社会人さん。」

(おしまい)

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※物語はフィクションです。

by Dee

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