ショートストーリー~「出身」~
父はいわゆる転勤族だった。
おかげで子供の時から各地に移り住み、
いつも転校生である自分が
当たり前となっていた。
高校に入ってからは
将来を思ってくれてのことか、
単身赴任するようになった。
大学は、今まで住んだことがない
遠いところに決まり、
そこでの学生生活は、
ブルーな気持ちから始まった。
「出身はどこ?」
必ず聞かれる。
全国各地から集まっているので
挨拶代りなのかも知れないが、
ひと言で答えられない「出身地」なので
高校時代過ごした場所を
答えるようにした。
相手にとってはそれで良いのだろうが、
自分にとってはどうもしっくりこなかった。
思い出に残っている場所は
もっとたくさんあるのだ。
もやもやする日々が続いた。
それでも、
年が明ける頃には
自分なりの答えを出していた。
“アイデンティティー”
地名ではない。
今、ここにいること。
そして、これまで歩いてきた道が
自分のすべてであること。
(おしまい)
※ストーリーはフィクションです。
by Dee
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