ショートストーリー~「傘」~
雨は嫌いだ。
気分も冴えない。
しかし少しでも雨の日を楽しめるように
傘を買いに行った。
デパートにはたくさんの傘が並んでいる。
色や模様、柄の形など
見ているだけでも楽しくなってきた。
迷いに迷った挙句、
ようやく2つに候補を絞り込んだ。
淡いピンクとスカイブルー。
どちらも気分を明るくしてくれそうだ。
“う~ん…こっち!”
目立ち過ぎない花柄が入った淡いピンクにした。
その日から
雨が待ち遠しくなった。
ところが、そういう時に限って降らないものだ。
“お天道様に任せましょ”
数日後、前線とともにようやく出番がやってきた。
暗い空の下
そこだけスポットライトが当たっているかのように
傘と気分は明るかった。
“次はレインシューズを見に行こうかなぁ”
そんなことを考えながら仕事に向かい、
いつものコンビニで昼食を買った。
「えっ!?あ…」
お店を出ると傘がなかった。
「え、えっ…なんで!?」
パニックに陥っていた。
とりあえずお店に戻り、店員さんに伝えると
「見てないので分かりませんねぇ。
どなたかが間違えて持って行ってしまったんですかねぇ。」
間違えたならその人の傘があるはずだが1本もない。
それを言っても仕方がないのであきらめるしかなかった。
会社まではあと少し。
新しいビニール傘を買う気にもなれず、
雨の中をトボトボと歩いて行った。
「あのー…」
後ろから声がするので振り向くと、
初老の女性がさしている黒い傘を上にあげながら
「私もそっちに行くので、一緒に入りませんか?」
と言いながら私の横に並んで来た。
「あ、どうも…すいません…でも、すぐ…」
と言いながらも入れてもらった。
「すいません、ありがとうございます」
身をかがめ、私も傘に手を添えた。
たぶん、雨に濡れることが嫌なんじゃなくて
一緒に歩きたかったのかも知れない。
虹のようなこの女性と。
(おしまい)
※物語はフィクションです。
by Dee
素敵な微笑ましくなるお話にニンマリしました。が、お気に入りのはながらの淡いピンクの傘が…(>_<)です。
佐藤さん、ありがとうございます。
傘がなくなっていなければ、この女性との出会いもなかったかも知れませんね。