備前住香平【9】
なんとなく、ぼんやりと…
なんでだろう、でも…
初めての外泊を終え、いつもの病院生活を過ごす。
しかし、何か違和感がある。
言葉では言い表すことができないけれど、変だ。
主治医に、外泊してから気分が落ち着かないことを話した。
「そりゃそうだよ。ここ病院だよ。家じゃないんだから、落ち着かないのが普通なんだって。」
なるほど、言われてみりゃそうだ。
今まで病室でリラックスできていたのが変だったのか
「また帰ってみたほうが良いんですかね?」
次の外泊について聞いてみた。
「帰る?そうそう、家なんだからね。行くんじゃなくて、帰る。そこが重要。」
「こっちはいつでもいいんだから、帰ってみようと思う日に外泊しよう。」
そういって主治医は笑顔で病室から姿を消した。
ひとり、夕焼けで赤く染まる中庭を見て考えていると、
「先生から話を聞いたけど、帰る気になった?」
と妻がやってきた。
「ん〜、明日また帰ってみようか。」
そう返事をして、面会時間が終わるまで何を話をしたのか覚えてはいないが、外泊中に食べたいものなどについて話をしたらしい。
翌朝、病棟の看護師に見送られながら外泊へ。
前回に比べ、車に乗るのは若干だが良かったらしい。
実は、この2回目の外泊については、全く覚えていない。
どうやら、1泊だった予定を2泊までしたらしいのだが、全然覚えていない。
「さぁて、そろそろ終わりかな。退院いつにするかね?」
外泊から帰ってきた若頭に、主治医はそう話しかけてきた。
Σ(゚Д゚;) えっ?
「は?退院ですか?」
あまりに突然の言葉にそう返すしかなかった。
Dr「そう、退院。病院は病人がいるところ。このままいても病人になっちゃうからね。帰るタイミングは今かなぁ。」
若&家族「でも、まだ完全には記憶が…」
Dr「そうだね、でも、それを待っていると何にも始まらないから。記憶が戻らなければ戻らないなりに考えていかないと。」
家族「記憶はこのままでしょうか?」
Dr「分かんないねぇ、こればっかりは。原因という原因が分からないからねぇ。でも、若頭さんは若頭さんでしょ?命あるならこれだけでも良しでしょう。」
若&家族「……(||-д-)」返す言葉はなかった。
Dr「5日!あと5日入院ね。その間に帰る準備をしっかりと整えよう。」
笑顔でそう言うと、手を振りながら消えていった。
「若さん、退院決まったんですね?」と看護師。
「はぁ、◯日が退院日だって先生が。」そう返すと…
「あっ!そうか、合わせたんだ…ここ辞めちゃうのよ。先生。」
そう、私を担当してきた主治医は新規開設される遠方の精神科病院に呼ばれ、私の退院日に退職されるのであった。