ショートストーリー~「坂道」~
傾斜がきつい坂の途中に住んでいた。
小さな港町で海沿いは平地になっているが、
商業、教育、行政、交通機関が占めており
住宅地は山沿いに開けている。
小・中・高は、坂を上り下りの通学が
当たり前の光景だった。
大学進学を機に都会暮らしが始まり
そのまま就職し、そのまま結婚し
田舎に帰るつもりは今のところない。
先日、母親から電話があった。
元気そうではあるが今後の不安も
抱いているようだ。
近頃では宅配や移動販売のお陰で
買い物にいかなくて済むように
なったらしい。
膝が痛むと言っている母には
ありがたいことだ。
近所にも同年代が多い。
坂の街では救世主のような存在だ。
電話を切り、瞼を閉じる。
きつい坂道を上り
後ろを振り返ると
海に沈む夕陽が
空をオレンジに染め
水面にまぶしく反射し
ゆっくりゆっくり
小さくなっていく。
あの情景が
僕の故郷だ。
今後について、少し考えよう。
(おしまい)
物語はフィクションです。
by Dee
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